高齢者が入院すると、医師や看護師といった医療の専門家によるケアを受けられるため、家族は家庭に高齢者がいる時よりも安心できると考えがちでです。もっとも、病院は夜中に鳴り響くナースコールや他の患者の苦しむ声、そして廊下を頻繁に行き交う人々の騒音など、高齢者のストレスの要因となるものが少なくありません。こうした環境で心配なのは、高齢者に起きるせん妄状態です。せん妄とは、幻覚や幻聴を伴い、興奮状態に陥ったり暴れたりする意識障害のこと。入院してから様子がおかしくなってしまったと嘆く人は珍しくありません。
急に人格が変わったかのように奇異な振る舞いをするので、家族は認知症に罹患したのではないかと思うことが多いようです。しかし、認知症は徐々に進行する疾病であり、急に極端な症状が始まることはありません。せん妄になると、注意力が低下するものの、認知症と異なり記憶力には問題はないのです。せん妄は脳の一時的な機能不全であり、迅速に治療すれば完治するといわれています。入院中のせん妄は、内科的疾患や薬物投与により起きやすく、家族は予め注意しなければなりません。
環境変化によるストレスがせん妄の原因になるケースもあることから、家族はせん妄に陥った高齢者にできるだけ寄り添い、不安を取り除く努力を求められます。高齢者をリラックスさせるため、高齢者の好きなものを見せたり好みの音楽を聴かせたりするといった工夫が大切です。否定的な表現を避け、励ましや喜びの言葉をかけることも、せん妄治療に効果があるでしょう。